グローバルだから

朝一番の高速船でブラティスラバへ。EU29。ブラティスラバはスロバキアの首都で、ウィーンからドナウ川を下る高速船に乗って一時間ちょっとで着く一番近い外国だ。カナリヤ諸島に行こうか、ブラジルに行くか、それともシチリアに行くかと散々迷った末どこにも行かなかったので、せめて一箇所くらいという思いで出掛けることにしたのだった。七年ぶりに訪れたブラティスラバは、びっくりするくらいレストランが増え、看板も増え、だいぶ西側色が強くなった印象。前回来たのが冬だったせいもあるのかもしれないけれど、なんだかすっかり観光地らしくなっている。通貨もユーロに切り変わり、西側のチェーン店が建ち並ぶ。ユーロに入るということは、つまりはこういう事なのだと強く思い知る。BIPAがあり、BILAがあり、dmがあるのっぺらな街になってゆく。要するに、どこから吸い上げるかだけなのだ。(EUのように)新興国から吸い上げるのか、あるいは(日本のように)自国民から吸い上げるのか、あるのはその切り分け方だけに思える。町中をふらふら歩き、目についたカフェに入ってビールを飲む。オーストリアのビールよりもずっと口に合う。スロバキア語の書かれたTシャツを買いたかったのだけれど、そんなものは一枚も見つけられず。探し回った古本屋も遂に発見できず、結局文房具屋でノートを買って帰ることにする。帰りは駅まで歩いて電車で帰宅。EU13。ボートの半額しかかからずに戻ってこれて、しかもボートよりも早い。

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新しい方位

今日は朝から大忙し。ウィーンの市内を西から東、南から北へと大移動しながら雑務をこなす。散々迷った末、買って帰ろうかと思っていた画布も買わないことにする。昼過ぎからMとプールへ。古くからやっているというオタクリング郊外にある屋外プールはなんだか絵に描いた風景のようだ。50Mプールを十往復ほど泳ぐ。それから日光浴。まだ日陰に入ると少し肌寒い。18時にCのアトリエを訪問する。改築前の廃墟同然の物件を格安で借りて修繕したというアトリエは何部屋もあって、広くて大変うらやましい。レッツに行く途中に見た、Cが手がけたサイロの模型も置いてあった。それからみなでピザマリへ。ここのピザは(ドイツ語圏にしては)本当においしい。みんなは味がちょっと落ちたと云うが、僕にはいつも最高のピザだ。帰りしなに、Mが「今日来れてよかったわ」と云う。どうしてかと訊ねると、たぶんまたしばらくは自分からは来ないだろうからと、意味深に呟いたのだった。

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遠吠え

今日は観光客になる、ショッピング・アニマルになると心に決めて朝からマリアヒルファー通りをぶいぶいいわせる。が、買ったのは結局靴下のみ。それからHさんと待ち合わせて、シュテファン近くの高級スーパーへ。日本で売っている高級食材がすべて半額以下という恐ろしい環境に膝が笑う。塩とジャムとジェノベーゼソース、それから高級オリーブオイルを奮発して購入。昼食をホテル・ザッハーという超有名定番観光スポットで食べることにしたのは、Mが以前シャンパン・ブレックファーストを食べてなかなか佳かったと云っていたのを訊いたからだったのだけれど、量は少なく、値段は高く、接客は酷く雑で、なかなか不愉快な気分にさせられる。後々訊けばそれこそがウィーン風の名物接客であり、そのウェイターの不遜な態度を楽しみにして訪れる人々もいるというのだから、奥が深いと云うべきなのか、よくわからない。色んな楽しみ方があるものだと思う。気分を晴らすためにホイリゲに行きワイン。ヨガ帰りのAとMと落ち合って夕食。Aのお腹には8月出産予定の二人目の子供がいる。Aの子供部屋のクローゼットの下に女王蜂が巣を作っていて、どうにか殺さずに巣を始末したいがどうすればいいかと相談されて、困る。

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スタンド・バイ・ミーみたいに

 ホテルを出てドナウ川沿いをぶらぶらと散歩。本日も晴天。歩道沿いに咲き乱れたタンポポから出た綿毛が、塊になって道路脇にふきだまっている。お昼にホイリゲに行こうと思ったのだけれど、残念ながら日中は営業していなかった。そもそもホイリゲとは夕方から営業する店を指すのだと教えてもらう。仕方なく、教会の外に立っていた女性に訊いたレストランに行って今が旬のシュパーゲル(アスパラガス)料理ばかりを頼む。シュパーゲルのスープ、シュパーゲルのメインディッシュ。ゲバッケンと書いてあるメニューが揚げ物だと最近知った。気がつけば、メニューも見てもだいたいは推察できるようになっている。日曜日なので街中のほとんどのお店はお休みで、とくに立ち寄るようなところもなくカフェでお茶をして帰宅。家に帰ってMとお喋り。早めに就寝。

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クレムス

クレムスという街でドナウ・フェスという音楽祭があると訊いたのは、まだ来て間もない頃だった。タイムテーブルを見るとほとんど知っている演奏者はいなかったのだけれど、音楽に詳しい日本の友達にメールで訊いてみて、オブ・モントリオールとヘラクレス&ラブアフェア目当てに最終日一日だけ出かけてみることにした。クレムスまではウィーンから電車で一時間程度。ワイン畑が拡がる昔ながらの小さな街のドナウ川畔に会場がある。15時に会場に着き入場料EU30を払うと、受付で兄ちゃんが腕にリスト・バンドを締めてくれる。ドナウ・フェスと書かれた黄緑色のリボンをはさみで切って、いちいち目地金をやっとこできちきちと挟んで止めてくれる。余ったリボンを丁寧にはさみで切ってくれたりして、いちいち来場者にこんなことやっていて大丈夫なのかと心配になる。そして朝からなにかしら演奏しているはずなのに、中からはなにも聞こえてこない。不審に思いながらも、とりあえず街中で併せて開催されている展覧会から見て回る。リスト・バンドを見せると、町内の美術館などはすべてフリーパスになる。音楽フェスと併せて現代美術の展覧会をすると云うのは、けっこういいアイディアなのではないかと思う。
 オブ・モントリオールを観に19時すぎにメイン会場に戻るとまだ人影もまばらで、中を覗くと会場は渋谷O-westくらいのホールが一つとO-nest程のホールが一つだけで、ドナウ・フェスと唱うくらいだからどんな大きなフェスかと想像していたら、思いの外こじんまりしていて拍子抜けする。しかも事前にウェブページで確認した時間割には朝十時からの予定が書かれていたので、てっきり知らないバンドが一日中演奏しているとばかり思っていたのだけれど、よくよくリーフレットを読むと朝十時から開催なのはさっき見に行った展覧会等だけで、バンドの演奏は一日4組のみ、夕方十七時半から別会場で二組、メイン会場は二十時のオブ・モントリオールが初っぱなだということが今更わかって、ずっこけたのであった。それはどのバンドも知らないはずだ。日本のフェスを想像して物事を考えると、みごとに足をすくわれる。本当にいろいろなものを無意識のうちに型に填めてみているものだと思う。オブ・モントリオールもヘラクレスアンドザラブアフェアの演奏はどちらもすばらしかった。ヨーロッパのフェスと聞いてもっとみんな踊り狂うデンジャラスな雰囲気を想像していたら、思いの外みな大人しくて、これにもけっこう驚いたのだった。

 

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アイスはコーンで。

 シェーンブルン宮殿にある動物園に行く。入場料EU15。以前にも一度訪れたことがあったが、そのときはまだ四月の初めで、雪も残っている頃だった。東京ではほとんど訪れないのだけれど、知らない街の動物園に行くのは好きだ。雨模様の天気の所為もあってか人影もまばらで、動物たちも心なしかリラックスしているように思う。パンダはここでも大人気。前回訪れたときに印象深かった白クマの檻は工事中で観覧できず。動物園内のアイスクリームショップでアイスを買う。フィレンツェ以来のアイスクリーム恐怖症は、ここドイツ語圏においてはようやく克服しつつあるようだ。夜、LとCの家に自転車を借りに行く。

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口を窄めて

午前中からプールと日課。夕刻、日本からもう一人のMが到着。いつのまにか、地下鉄の料金がEU1.8からEU2に値上げされていた。その代わり、年定期や月定期などの値段は下がったらしい。美術館にしろ地下鉄にしろ、観光客からは多く取って市民には安価で提供、というのが一般的な流れのようだ。それから地下鉄に自転車を持ち込むのも無料になった。夜、クンストハーレとLのグループ展のオープニング。どこかで見たことがあるような作品が大半と、ほんの僅かの佳い作品。それはいつどこに行っても同じようなものなのかもしれないけれど。帰りにシュニッツェル目当てでカフェに入ったら品切れだと云われ、仕方なくグヤーシュを頼むとすごくしょっぱいものが出てきた。

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じゃがいもばかり

 引き続き快晴。最近は、早朝にベッドに差し込む日の光でじりじりと照らされて起きる毎日。仕事をしたりMが台所にタオル掛けを作るのを手伝ったりしてから、ふらっと出かける。以前から気になっていた露天売りの焼きそばのようなものを食べる。数年前からベルリンではよく見かけるようになっていたが、それがこっちにも拡がってきたようだ。小さいやつがEU2.9。しかし全然小さくない。しかも全然おいしくない。広場の適当なベンチを見つけて本を読む。寝っ転がって読んでいるうちにいつの間にか眠ってしまう。夜のセセッションのオープニングに行くのはやめにして、Mと閉店間際のスーパーに飛び込んで白ワインを買い、家でポークソテーとじゃがいも、それからサラダを作って食べる。

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ショーン!

今日はメーデーで、町中のお店はほとんどおやすみ。午前中慌ただしく日本とやりとりをしていたら、近くの通りをデモ隊が行進していく音が聞こえた。これからリング(街の中心部)で他の部隊と合流してデモ行進をするのだそうだ。デモ隊を観てみようと慌ててサンダルをつっかけて外に出たものの、間に合わずに赤いトレーナーで揃えたデモ隊最後尾の背中を見送る。思ったほど人数は居なかった。夕方近くになってから近くにあるシェーンブルン宮殿の庭まで散策に行く。シェーンブルンは元々ハプスブルグ家の別邸のような所で、とにかく豪華で馬鹿でかい。云わずと知れたウィーン随一の観光名所であり、建物内の博物館には毎日多くの観光客が訪れるのだけれど、その建物の裏にある庭には入場料を払わずに入ることが出来る。庭と云っても、想像を超えるほど広い。遠近感がおかしくなりそうな、絵のような広大な庭の砂利道を歩き、適当な芝生の木陰に寝っ転がってマルグリット・ユルスナール『ハドリアヌス帝の回想』を読む。この本を読むのにこんなにふさわしそうな場所もあまり思いつかない。今日は子供にも邪魔されず。夜、Lに誘われて出かける。プラターでメーデー名物だという花火を観て、ラングース(ピザ生地みたいなものを揚げたものにすり下ろしたニンニクを塗って食べる恐ろしい食べ物)を食べる。

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トラスと桁橋

 日中、仕事に出掛けたMから連絡がある。タイ料理屋でお昼を食べないかと誘われて、自転車でふらふらと出かける。近所にあるタイ人が経営するアジア食料品店は奥に部屋があり、そこでひっそりとランチ営業をしている。普通に前を通り過ぎただけでは中で飲食出来るとは想像も出来ないような店だが、美味しいトムヤムクンや、レッドカレーが食べられる。此方に来たばかりの頃に一度行ったきりだったので再訪を楽しみにしていたのだけれど、待ち合わせたMと店を訪れると生憎月曜日はランチをやっていないとのこと。がっかりして店を出る僕たちの前を、綺麗な小豆色のフィアット・スパイダーが通り過ぎる。
Mはどこかでタオル掛けを作る為の木の棒を手に入れていた。

 

 仕方がないので近所の別のベトナム料理屋に行くが、ここもお休み。手近にケバブ屋で済ませるか、西駅の方まで出るか悩みに悩んで、行ったことがない近所の、さらにもう一件別のベトナム料理屋に飛び込んで生春巻きを食べながら、Mのアレルギーテストの結果の話。今までは小麦がダメとされてきたが、どうも原因は小麦ではなさそうだという。では今までのあの大騒ぎはなんだったのかとも思うが、まあアレルギーに限らず、大抵のことはそんなものなのかもしれない。これからしばらくはニンニクや桃、林檎、パイナップル、ほうれん草などを絶って様子を見るらしい。家に戻り諸々作業。今日は調子が良く、捗りがいい。『オリーブ・キタリッジの生活』を読了。夕方、再びMから電話があり、夕食はエッグ・マーティンの家でBBQをするから先日作ったごまドレッシングをもう一度作って八時に着くように家に行けという。諒解ゝと安請け合いして電話を切って時計を観ると、あと一時間しかなかった。夜の八時近くになってもまだまだ明るい。日が長いと、どうにも調子が狂う。

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適正と不適正。場所の問題。

今日も良い天気。日曜日でお店はどこも閉まっているし、Mは一日出かけていて、部屋でのんびり過ごす。窓を開けて机に向かっていると、通りを歩く人々の声が飛び込んでくる。木造家屋の多い日本と、石で作られたウィーンの街では声の響き方も違っていて、石の壁に打ち返された声は、五階にあるこの部屋の窓まで生々しい響を残して駆け上がってくる。

 午後、ずっと部屋に籠もっているのもどうかと思い、近くの公園まで本を持って出かけてみる。休日午後の公園は、多くの子ども連れの家族や散歩する人々で賑わっている。芝生では、みな上半身裸になって日光浴をしている。あの中欧の長く厳しい冬を知ったあとでは、この春が訪れた途端の野放図な太陽礼賛主義も致し方なしと思えてしまう。そんな人々の間を縫って、適当な芝生の木陰に寝転がって本を読む。どのくらいそうしていただろう。やがて少し風が強くなって、近くの樹から煽られた小枝が飛んできて何度も体に当たるので、なんとなく出て行けと云われているような気分になって、場所を変えることにする。公園の奥の方へと歩いて行くと、都合良く家族連れがベンチを立つところで、しめしめとばかりにそこに寝転がって本を読み始める。しかし五分もたたないうちに本を読む僕の頭の上から声がして、顔を上げるとアラブ系の若者がなにか僕に話しかけている。公園で他人に話しかけるなんて煙草かライターの用程度しか咄嗟には思い当たらないが、生憎どちらも持ち合わせていない。なにを言っているのか全然わからず、kein Deutsch(ドイツ語わからない)と答えると肩をすくめて去っていった。申し訳ないと思いつつまた寝転がって本に目を戻す。すると今度は二分もたたずに三歳ぐらいの子供がよちよちまっすぐに僕を目指して歩いてくるのだった。男の子は脇腹を搔きながら僕に向かってなにかを話しているのだけれど、僕には相変わらず全然わからない。適当に日本語で相づちを打っていると、ちょこんと僕の隣に腰掛けて、まだなにかを独り言のように話している。そうして徐にぺろりと自分のシャツをめくり、さっきから搔いていた脇腹の所に目を落としたのだった。するとそこには大きな蟻がいて、男の子の腹の肉をしっかと噛んでいる。あっ、と思うと同時に男の子の手が蟻を払う。顔がみるみるゆがみ、瞳から大粒の涙があふれ出す。僕はなにもすることが出来ないまま、変化する男の子の表情と、払った跡の赤くなった皮膚と、その中央に残された蟻の口の破片を見つめていた。やがて肺から大きくはき出された空気はようやく声となって口からあふれ出し、辺りに大きな泣き声が響きわたる。周りの人たちが一斉になにごとかとこちらを向いて、近くにいた子連れの女の人がこっちに向かって何かを言っている。どうも僕が泣かせたと思われたらしい。途方に暮れているとどこからか母親がやって来て、子供が蟻がお腹を噛んだと訴えたので僕の嫌疑はあっさりと晴れたものの、微妙な空気にそそくさとその場を後にする。やれやれだと思う。あれはやっぱり出て行けと云うサインだったのだ。そして僕がそれを無視したのだった。独り誰にも知られずに本を読みたいだけなのに、それすらも叶わない。言葉がしゃべれようがしゃべれまいが、どこで生まれてどこで暮らそうが、結局なにもかわりはしないのだ。

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黄金の輪

LとCおすすめのホイリゲ(ワインセラーが自分の葡萄畑の脇で夏の間だけ営業する簡易居酒屋)へ連れて行ってもらう。まさにホイリゲ日和と言いたくなるような快晴で、出かける前から気分は高揚するばかり。こちらに来て初めて短パンをはく。そのホイリゲはウィーンから電車で一時間ほどのRetzという街にある。Retzはチェコとの国境近い小さな街だ。駅から街を抜け、三十分ほど丘を登って見晴らしのよい高台まで出ると、青い空からにゅっとホイリゲの建物が生えてくる。辺りは一面の葡萄畑。ホイリゲは結婚式の人たちや地元の人たち、どこからか自転車でツーリングに来た人々で大賑わいだった。自分がその場所で一人だけのアジア人であり、よそ者であると云うことをすごく意識してしまうのは、例えばこういうときだ。一人異界からきた人間が周囲の完璧な輪を壊して汚してしまっているように思えて、こんなときはいつも自分が消えて、透明人間になれればいいのにと思う。そうして違和のない完璧な輪の輝きを、こっそりと息を潜めて見守ることができたならば、どんなに素晴らしいだろう。しかしそんな思いとは裏腹に、外の席に腰掛けて日の光を浴びながら飲む白ワインはもちろん格別で、白ワインがグラス一杯1ユーロという衝撃の安さにつられてついつい手が伸びて、気がつけば(いつものように)そんなことは忘れて結構な量を飲んでいるのだった。

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ブファラ

 すごくいい天気。街を歩いていると、そこらじゅうにポプラの綿毛がふわふわと飛んでいる。日中、市内のギャラリーを巡る。最後に訪れたギャラリーは生憎閉まっていたのだけれど、その脇の比較的大きな公園で大勢の人が芝生に寝っ転がっていたので、ちょっと混ぜてもらって本を読む。夜はピッツェリアでMの検査終了祝い。ここのピザははっきりいってうまい。そして夜の屋外がほんとうに心地よい。Mは自転車で、僕は地下鉄で帰る。

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鬼門アイス

 ここ二日くらいで急激に暖かくなる。日差しが強くなり、先週の寒さが嘘のよう。11時からLと日本語/ドイツ語の勉強会。のつもりだったのだけれど、結局殆ど英語で二時間しゃべるだけだった。その後Lと別れてMUMOKでクリス・オルデンバーグ展を観る。広場では皆外に腰掛けて思い思いにお喋りしたり本を読んだり、とても気持ちがよさそうだ。僕もパーカーを脱いでTシャツ一枚になる。ぶらぶらと家へと歩いているとアイスを食べているLとCに再び遭遇。通りで知り合いにばったり出会って、なんだかこの街にすこし受け入れられたような、そんなわるくない気分になった。あなたも買ってきたらと誘われて、実は以前フィレンツェでジェラートを買って15ユーロもぼったくられて以来怖くて海外で一度も買ったことがなかったアイスを実に八年ぶりに購入。するとやはり言い方がまずかったのか、他の人たちが食べているのより一回り大きめのコーンに入れられて、やっぱりまだまだ街の一員には遠いみたいだ。
 夜は久しぶりに家で作業。買ってきたスケッチブックに絵を描いて過ごす。久しぶりだから腕が鈍っていて、自分の描いたものにひどく打ちのめされる。

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訊く前に考えて

午前中仕事、午後から出かける。自転車のライトを買った。EU20。こういうものはこちらの方が高いような気がする。こっちでは夜は前後灯火しないと罰金なので、誰に訊いてもそんなの捕まらないから大丈夫だよ、というのだけれど念のため。警察が好きではないからこそ、無用の関わりはなるべく避けたいと思っている。なにはともあれ、これでもう夜も大手を振って自転車に乗れる。家に戻るとMが夕飯を作って待っていてくれる。アレルギーテスト継続中のため、夕飯は豚肉のステーキと茹でた芋のみ。夜、演劇を見に行く。ざっくりあらすじを話すと、白人四人がアフリカの奥地にどうやったら自然と共生できるのかを原住民に聞きに行くという内容で、びっくりするほどひどいと思ったが、しかしその酷さが原住民を敬う体をとりつつその実自分たち白人優越的な視線は終始完全に揺るがないという気持ち悪さに起因するものだということは、当たり前かもしれないけれど説明してもなかなかわかってもらえないのであった。オーストリアの劇場経営資金の85%は国によって賄われていると聞く。それがいいことなのかどうかは、正直よくわからない。夜、ひどく怖い夢を見る。

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午後は午後

 朝七時に起きて米を炊きおにぎりを握ってMに持たせる。どうでもいいが、こんなことは彼女にだってしたことがない。午後から会うことになっていたジャパニーズマーティンから待てども暮らせども連絡がなく、しかしこっちではよくある話なので、家で雑用をこなしつつだらだらと過ごす。いよいよ夕方四時になっても電話がないので、諦めて郊外の大型画材屋へ。カンバスの種類も豊富だし、木枠もあほみたいに安いし、日本で絵を描いているのがばからしく思えてくる。欲しいと思うものは日本に持って帰れないものばかり。なんとなく小さなスケッチブックを一冊だけ購入。少し絵を描きたい気分になっている。 
 その後やっと連絡が取れたマーティンと夜の八時に自転車屋で待ち合わせ。既に全く午後ではないが、夏は日が長いヨーロッパに暮らす人々にとってまだ明るい夜の八時は午後という感覚なのかもしれない。(たぶん違うと思うけど) そういえば最近どんどんと日が長くなっている。自転車に詳しい彼に僕が買おうと思っていた自転車を観てもらったのだけれど、僕がいいと思っていた自転車よりも高い自転車を買うように進められ、大いに迷う。近所にあるマーティン推薦の店で母親が作るよりもおいしいというグヤーシュ(シチューみたいなもの)を食べつつ、引き続き自転車の話。深夜帰宅。

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ブルガリア生春巻き

帰りがけに再びアジア食料品店へ。Mが明日から三日間、ラクトースだかフルクトースだかのアレルギーテストの為に乳製品、野菜類、豆類、糖類、酒類の摂取を控えなければならないのだという。なんだかよくわからないけれど難儀なことだ。リストを見ると食べられるものの方が圧倒的に少ない有様で、仕事先での昼食をどうしようかと悩んでいたので、おにぎりを作ってあげることにしたのだった。ユカリと海苔と米を購入。なんだかすっかり主夫みたいになっている。夜はエッグ・マーティンの家でご飯。料理上手と名高いブルガリア人の相方カリーンが作ると言うのでてっきりブルガリア料理だと想像していたら、出てきたのはベトナム料理であった。生春巻きにロールキャベツ。うまし。深夜帰宅。明日朝Mにおにぎりを握る用にお米を研いで就寝。

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中空の楼閣

日中ばたばたと雑用。日課は疎か。小旅行の相談は遅々として進まず。どこに行っても良いということは、特に行きたいところがないということだ。午後は掃除の人が来るというので部屋を片付けて、展覧会と買い物少々。驚くべき事にウィーンに来て十日を過ぎて初めて展覧会に行くのであった。MUMOKが混んでいたので、Albertinaで印象派展とクリムトのデッサン展を観る。ドガからモネマネムンクにクレーにピカソ、質もさながらものすごい量で、観るだけですっかり疲れる。こんなに絵が多いとなかなか一枚の絵と向き合えない。しかしそれでいても、いい絵は一段立って見えたりもする。

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アインシュヴァルツガファーテイプビッテ!

今日はMとベルリンマーティンと自転車で郊外へ出かける。あいにく天気が悪く、これから雨が降るというのでてっきり中止になると思っていたのに、二人のなんだかよくわからないテンションで決行となる。個人的にはすっかり家に籠もるつもりでいたのだけれど、こうなっては仕方がない。雨の中自転車を走らせる腹を括る。海外に来ると言葉の制約や一般常識の違いからとかく自分の出来ることが限られてきて、例えばガムテープを買うだけといったなんでもない行為でもどこで買えばいいのか、どれを買ったらいいのかなどと大騒ぎだったりするのだけれど、なんというかまあそういう羽目に陥るために来ているというような所も多分にあって、日本では自分の好きなように生きるのがとても容易いから、かえって色々やらなかったり敬遠しがちだったりすることをこっちに来て子どもみたいに人に誘われるままくっついてあっちこっち出かけたり遊びに行ったりしているうちに、知らずに自分の周りに作っていた囲いのようなものが垢と一緒にがらがらと崩れていくような気持ちになったりして、それって結構大切なことだとも思っている。
地下鉄に自転車を乗せてU6の終点近くまで行き、そこから雨の中自転車で山道を登ってオーストリアの彫刻家、Fritz Wotrubaのデザインを元に建てられたという三位一体教会(Kirche zur Heiligsten Dreifaltigkeit)まで行く。石柱が積み上がったような不思議なデザイン。山の頂上に立てられたその教会の脇から延びる小道から、森の中を散策する。森に入ってしまえば雨もさほど気にならない。マーティンはイギリスを思い出すと言い、僕は四年前に滞在したスイスのレジデンスから湖に通じる道を思い出していた。ホイリゲに寄って帰宅。夜は日本で知り合ったLとCと再開。再び鈴木清順特集で映画『河内カルメン』を観て、Alt wienといういつも必ず一度は訪れるカフェで歓談する。このカフェはいつ来てもちっとも変わらないし、ずっと同じ人が働いている。こういう場所が東京にももっともっとあるといいのにと思う。しゃれではなく。

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自宅異常なし

ジョギング、日課、読書、作業。土曜の市に行こうかと思ったが行かず。夜は夜で映画に誘われたのだけれど、これも行かず。せっかくウィーンにいるのに毎日家にいてばかりいてとMに言われるが、まあ絵描きなんて日本だろうがどこだろうがおおかたずっと家にいるもんだよたぶん、と口から出任せに説明しておく。されど部屋で集中してなにか物事に当たっているかと問われれば、そうでもないと答えるしかないのだけれど。

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