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ソング・ブック

これから駅前で絵の受け渡しだいうのに、突然の雨。窓から外を眺めると、昼間晴れていたのが嘘のように、太い雨が叩きつけている。ついてないなー。濡れないように絵をもう一度梱包し直して、心を決めて家を出る。傘を差しても、すぐに足下はずぶ濡れてしまう。
 やっとのことで辿り着いた駅改札の軒下で、一息を着いて通りを眺めると、急な夕立に街はざわめいていて、軒先で雨宿りをする人、濡れるのを厭わず道を急ぐ人、タオルのような布を頭に翳しながらタクシーから駅へと駆け込む人、それぞれが思い思いに突然の受難をやり過ごす姿に、まるで秩序の綻びが見えるよう。ちょっと人が悪いような気もするけれど、そういうのを眺めるのは嫌いじゃない。それにしても、夕立とはよく言ったものだ。夕に立つのは雨なのか、それとも人なのか。

 空が稲光って、雨脚はますます速くなる。濡れた裾が、じっとりと足に纏わる。どうせなら、いっそなにもかも滅茶苦茶にしてくれないか。電車が着いて、大勢の人がどっと改札から溢れ出る。編集者は、まだ来ない。

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ブラジルの雷雨

すぐにも雨が降り出しそうなのに、なかなか降り出さない。クーラーを切って、窓という窓を全部開ける。湿気を含んだ、しかし気持ちの良い風が、窓から吹き込んでくる。冷蔵庫から箱買いしたアイスクリームを取り出して、ぺろぺろと嘗めながらテレビでオリンピックを眺める。画面に映るのは日本人選手ばかり。日本人選手の試合が終わると、まるで後の試合にはなんの価値もないといったように、画面がスタジオに切り替わってしまう。いつからこんなに偉そうになったんだろう。昔はもっと全然知らない国の選手同士の対戦をだらだらと流していたような印象があるのだけれど、それともそれは単に僕の記憶違いなのだろうか。いろんな国からやってきた、いろんな人たち。その、それぞれの胸に秘めた想いや気持ちを賭けた戦いを、遠くからただじっと眺めていたいと思うのだけれど。金とか銀ではなく。

 テレビを見ていたら、ふと、なんだか無性にどこかへ旅行に行きたくなって、行くならどこかな、やっぱブラジルかな、そんな思いつきだけで、旅行代理店に電話を掛けてみる。電話口に出たのは無愛想で気だるそうなお姉さん。こっちの電話口には、ほぼ冷やかしの僕。なんだか申し訳ないような気分になりながら尋ねると、ブラジルまで十月出発往復燃料代込みで約二十万円だそうだ。思いつきで行くには、ずいぶんと高い。お礼を言って電話を切る。電話が終わりそうになると、お姉さんの声色が一つ高くなって、少しだけ愛想が良くなった。たぶん電話を切れるのが嬉しかったんだろう。しかし、残念ながら彼女はそれでも電話に出ないわけにはいかないのだ。
 電話を切るのとほとんど同時に雷が轟いて、大粒の雨が降り始める。慌てて窓を閉めて、クーラーのスイッチを入れる。それから雨は夜半まで降ったりやんだりを繰り返したのち、やがてバケツをひっくり返したようなスコールになる。夜になっても、テレビは相変わらず勝者ばかりを映している。あの電話口の女の子は、まだ出たくない電話に出続けているのだろうか。それとももう解放されただろうか。何度も繰り返し飽くほど流される日本人選手の試合VTRを眺め続けながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

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