さよならも云わないで
お昼にモスバーガーに行ったら、メニューの中で一番好きだったチキンバーガーが販売終了になっていた。マイケル・ジャクソンも死んでしまった。そして僕のアトリエには、新しい椅子が来た。
新しい椅子はアーロンチェアという、十六万円もする王様みたいな椅子で、腰にとても佳いと云われている。ヤンエグ(死語)みたいで部屋にはそぐわないし、場所も取るしと散々逡巡したものの、最近日増しに酷くなる腰痛には換えられず、制作が一段落した開放感も相まって、先日ふと注文してしまったのだ。注文したときの僕は、たぶん悟りきった高僧のような顔をしていたんじゃないかと思う。
届いた椅子を宅急便のお兄さんと二人がかりで部屋に運び入れ、梱包を解いてさっそく座ってみると、座り心地は上々で、椅子を前傾で固定もできる。今まで使っていた学校用の椅子と比べれば、軽自動車からロールスロイスに乗り換えたようなものなのかもしれない。机に向かって前のめりの姿勢はどこか攻めの体勢で、なんだかバリバリと素晴らしい絵が描けそうな、そんな気分にもなるようで、さっそくこうして文章を打ち始めてみたのだけれど、やっぱりそれは気のせいだったみたい。
窓を全開にして、部屋を掃除する。雑誌と段ボールをひもで束ねて、床のぞうきんがけをして、ついでに台所とトイレも掃除する。それから新しいキャンバスを二枚張って、冷蔵庫からアイスを出して、買ったばかりの椅子に腰掛けてぺろぺろと舐める。十一月の個展の会場は京都よりも大きい場所なのに、準備期間はもう三ヶ月ほどしか残っていない。今日は暑いね。立て膝をついてアイスを舐めるには、アーロンチェアーよりも学校の椅子の方がやっぱりしっくりくるようだ。Youtubeでマイケル・ジャクソンの映像を見ながら、もうチキンバーガーを食べることは叶わないのかと思う。
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