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LOVE SPACE

表参道のユトレヒトでも、画集の取り扱いがはじまりました。 (→こちら)
通販も出来ます。


 空腹に耐えかね飛び込んだ場末の蕎麦屋は、午後三時という時間のせいかやけに閑散としていて、窓のない店内を照らし出す影のある白熱灯の照明と混じり合って、少し大きめのボリュームで流れている山下達郎がやけに耳に届いた。
メニューには蕎麦よりもカツ丼や親子丼のほうが大きく記されていて、これは丼物の方が人気があるという事なのか、あるいは丼物の人気が無い故の処置なのかとひとしきり考えてから、ざる蕎麦を単品で頼んだ。ざる蕎麦の方が早く出来そうだし、なにより失敗したところで傷は浅そうだ。店員の女の子が、素っ気なくボールペンで注文をメモしてから、厨房へと消えてゆく。店内には、相変わらず山下達郎が流れている。「高気圧ガール」が終わって、「クリスマス・イブ」になる。おもわず口ずさむ。ベスト盤だろうか。ふと見るとさっきの店員も、カウンターの脇で小さく唇を震わせて、サビに合わせて小声で歌っていた。もしかするとこの店では、繰り返しずっと山下達郎が流れているのかもしれない。
 運ばれてきた蕎麦は、予想を超えておいしくなかった。汁ばかりやけに甘く濃くて、ベタベタと口に残る。丼物のほうがましだったか。そんなことを考えながら、それにしてもここは今まで居合わせたどんな場所よりも、山下達郎を聴くのに適した場所かもしれない、と思う。妙に沁みて乱される。席を離れがたくて、食べ終わった後もしばらくお茶を啜りながら黙って二曲聴いて、店を出た。

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